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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)263号 判決 1998年6月30日

主文

特許庁が平成六年審判第七六六二号事件について平成九年六月二三日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(審決の理由の要点)の各事実、並びに、引用商標の構成、出願日・登録日及び指定商品が審決認定のとおりであり、本願商標と引用商標の各指定商品が同一又は類似のものであることは、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(一)  引用商標は、別紙(2)に示すとおり、黒く塗り潰した角丸の二等辺三角形状の図形の上部に黒く塗り潰した四個の不整形の楕円を配してなり、あたかも動物の足跡を認識させる図形よりなるものであるから、「動物の足跡」あるいは「足跡」の観念を想起させ、ひいては「ドウブツノアシアト」あるいは「アシアト」の称呼を生じるものであること、本願商標は、その文字部分から「ケルメ」の称呼を生じることは、当事者間に争いがない。

(二)  本願商標の構成を示すものであることについて当事者間に争いのない別紙(1)によれば、本願商標は、「KELME」の欧文字と黒く塗り潰した角丸の二等辺三角形状の図形の上部に黒く塗り潰した四個の不整形の楕円を配してなり、あたかも動物の足跡を認識させる図形よりなるものであること、文字部分と図形部分とは、底辺を揃えて一直線上に配し、高さも同じになるように揃えてあること、文字部分と図形部分との間隔は各文字間の間隔より広く、若干空白をおいて表されていること、図形部分の大きさは「KELME」の各文字の一文字分に相当する程度の大きさであり、本願商標の横幅に占める割合は、文字部分が七分の五強、図形部分が七分の一強であって(七分の一弱は文字部分と図形部分との間の空白部分)、本願商標において、文字部分は図形部分の五倍程度の広さを占めていることが認められる。

上記のとおり、本願商標においては、図形部分の大きさが「KELME」の各文字の一文字分に相当する程度の大きさであり、本願商標の横幅に占める割合が、文字部分は七分の五強、図形部分は七分の一強であって、文字部分が図形部分の五倍程度の広さを占めていることに加えて、「KELME」という語が特定の観念を有しない独特の造語であることから、本願商標に接した取引者・需要者は強く注意を引かれるものと想定されることからすると、「KELME」の欧文字部分に強い自他商品の識別力が存するものと認めるのが相当である。

これに対し、図形部分は、「KELME」の各文字の一字分に相当する程度の大きさであり、本願商標において占める広さも文字部分の五分の一程度の小さいものであること、「動物の足跡」、「足跡」を想起させる図形からなる商標又はそのような図形と文字との結合からなる商標は、本願商標の出願当時において公知であるところ(この点は《証拠略》により認める。)、本願商標の図形は、比較的写実的な印象を与える引用商標の図形よりやや単純化されており、「動物の足跡」、「足跡」を表すものとして格別特徴的なものとは認められないことからすると、図形部分は、取引者・需要者に特に顕著な印象を与えるものとは認められず、文字部分と図形部分との間隔が各文字間の間隔より広く、若干空白をおいて表されていることや、文字部分と図形部分とが観念において関連性を有しないことを考慮しても、図形部分自体に独立した自他商品の識別力が存するものとまでは認められない。

そうすると、本願商標において、図形部分のみを分離して観察することは相当とはいえず、むしろ「KELME」の欧文字部分の外観、称呼が取引者・需要者に対し商品の出所の識別標識として強い印象を与えるものと認められ、したがって、本願商標は、その図形部分から「動物の足跡」あるいは「足跡」の観念を想起させ、ひいては「ドウブツノアシアト」あるいは「アシアト」の称呼が生じるものとすることはできない。

(三)  被告は、(a)本願商標は、文字部分と図形部分とが視覚上離れた印象を受けるものであり、さらに文字部分と図形部分とが共通の観念を有するとか、両者が結びついて一つの観念を表すというものではなく、むしろ、図形部分は愛らしい独特な構成態様により看者に強い印象を与えるものであって、文字部分と図形部分とが常に一体不可分であると認識する理由もないこと、(b)本願商標は、文字部分を赤色、図形部分を白色と色分けして使用しており、文字部分と図形部分とが常に一体として使用されていないことが明らかであること、(c)文字部分と図形部分のそれぞれの右肩に「<R>」を付している本願商標の使用態様に接する取引者・需要者は、文字商標と図形商標とを並べたものと認識するとみるのが自然であることを理由として、本願商標の構成中、図形部分が独立して自他商品識別標識としての機能を果たし得るものであり、図形部分より「動物の足跡」、「足跡」の観念、「ドウブツノアシアト」「アシアト」の称呼を生ずるものである旨主張する。

しかしながら、本願商標の図形部分が看者に強い印象を与えるものであるとは認められないこと、確かに文字部分と図形部分とが常に一体不可分であると認識する必要はないが、本願商標の場合は図形部分を分離して観察することが相当ではなく、「KELME」の欧文字部分に強い自他商品の識別力が存するものであることは、上記(二)に認定、説示したとおりである。また、甲第二号証ないし甲第七号証及び甲第一二号証によれば、本願商標は、文字部分を赤色、図形部分を白色に色分けして使用されている場合があること、文字部分と図形部分のそれぞれの右肩に登録商標であることを示す記号として一般的に用いられている「<R>」を付して使用されている場合があることが認められるが、このような使用態様によって、本願商標の図形部分が独立して自他商品識別標識としての機能を果たし得るものであるとは認められない。

したがって、被告の上記主張は採用することができない。

(四)  上記のとおりであるから、本願商標と引用商標とは観念、称呼において類似するとした審決の判断は誤りである。

また、上記のとおり本願商標において図形部分のみを分離して観察することは相当ではなく、本願商標と引用商標とが外観において相違することは明らかであって、この点についても類似するとした審決の判断は誤りである。

したがって、原告主張の取消理由は理由がある。

四  よって、原告の本訴請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一〇年五月一九日)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 浜崎浩一 裁判官 市川正巳)

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